代表的な周辺症状と対応

病院・診療所に誘導するには

このページでは、主にアルツハイマー型認知症でみられる周辺症状(困った症状)と、その対応について解説していきます。

 

●病院・診療所に行こうとしない
これは周辺症状ではないのですが、家族が最も困る現象の一つです。初期の認知症患者さんは、何となく「自分は認知症なのではないか」と感じ、不安になっています。その状態で家族から「認知症でないか、診てもらいましょう」と言われると、患者さんは不安が高じ、バカにされたように感じ、防衛反応から激しい拒否を示すことがあります。

 

●病院・診療所に誘導するには
一度話がこじれると、家族だけで病院・診療所に患者さん本人を連れて行くのは「ほぼ無理」です。ここはプロの助けを借りましょう。

 

かかりつけ医がいれば、はじめ家族だけ受診し、どうやって認知症診療に結びつけるか、相談してみましょう。

 

医師は「血圧が高いので、脳卒中の検査をしましょう」など、本人の持病を元に、脳の検査すすめることもあります。かかりつけ医がいない場合、地域包括支援センターに相談してみましょう。

 

●物盗られ妄想
認知症患者さんが、自分の大切な物やお金、財布などを、「家族が盗んだ」と言い、非難する言動です。患者さんは大切な物をタンスなどにしまうのですが、認知症のため、しまった場所を忘れてしまいます。そのため、いくらお金、財布を探しても見つかりません。

 

本人(認知症患者さん)は自尊心のため「大切な物を無くした」とは思えず、ぱっと「家族が盗んだ」という妄想が浮かんだとき、それを妄想ではなく「事実」と思い込んでしまいます。盗んだ犯人にされるのは、多くの場合、本人を一番世話している家族(お嫁さんなど)です

 

ただ、本人は、目の前にいる人と「盗まれた」という妄想を結びつけているだけです。特別な感情があって、目の前の家族を悪者にしているわけではありません。また、家族を攻撃するのはまずいという判断も、認知症のため出来ません。そして、犯人扱いされた家族がとても悩んでしまいます。

 

患者さんにとっては「盗まれた」ことが、頭の中では事実となっています。家族中で「盗んでいない」と否定しても、認知症患者さんは「家族みんなで私を嘘つき呼ばわりする」と、怒ったり、興奮するだけで、問題は解決しません。


物盗られ妄想

●物盗られ妄想への対応
物盗られ妄想では、犯人にされた家族がとても傷つき、精神的に参ってしまいます。そのままにしておくと、必ず介護体制が崩壊します。まずは他の家族で、非難された家族をケアしましょう。場合によっては認知症患者さんと非難された家族を、一時的に離す必要があります。

 

患者さんは「自分が受け入れられない」と感じた時、防衛反応として興奮したり、怒ったりします。また家族が妄想に同調しても、患者さんは物盗られ妄想を信じ込んでしまいます。従って、家族が冷静な状態なら、認知症患者さんの言い分を、否定も肯定もせず対応しましょう。

 

具体的には、「(大切なモノが)なくなったんだ、不思議だねぇ」、「(お嫁さんなどが)盗んだと思っているんだ、それは心配だよねぇ」などと声をかけられれば、理想です。また、「一緒に探しましょう」と言って、認知症患者さん本人にお金や財布を見つけてもらう手もあります。

 

いずれにせよ、物盗られ妄想は繰り返しますので、ケアマネージャー、かかりつけ医に相談しましょう。


徘徊とその対応

●徘徊とその対応
徘徊の原因は多岐にわたります。

 

1)自宅の部屋の配置がわからなくなり、うろうろする
部屋に絵を描いてぶら下げておく(トイレにはトイレの絵)と、患者さんの助けになります。

 

2)買い物や散歩に行って、迷子になってしまう
「外出中の無事を祈る、大切なお守りです」といって大き目のお守り袋に入れた携帯電話やGPS装置を持たせる。衣服に名前と住所を書いた名札を縫いつけておく(本人に見えないよう、内ポケットのあたりが良いです)。このように迷子になっても大丈夫なようにしておくと、いざという時に助かります。

 

3)家族とのコミュニケーションがうまくいっておらず、自宅が患者さんの居場所ではないと感じ、出て行く
認知症患者さんは、時間、今いる場所、周りにいる人がわからなくなってくるため、常に「自分の居場所はあるのか?」と不安を抱えています。この特徴をわかった上で、患者さんを受け入れる家族の工夫が必要です。

 

4)以前住んでいた家が「自宅」として患者さんの頭にあるため、今いるところを「自宅」と認識できず、出て行く
5)夕方に周りが暗くなると、不安感からせん妄状態(一時的な判断力低下)となり、「自宅に帰る」とか「会社に行く」と外に出て行く(夕暮れ症候群)

 

患者さんに「ここがあなたの家です」といくら家族が説明しても、納得させることは困難です。患者さんが外に出ないようにするには、出て行く直前にお茶に誘って、出たがっていた気持ちを忘れさせる手があります。ただ、患者さんの外出欲求は、かなり強いものです。そのため「徘徊させない」ようにすると、患者さん、家族ともに、かなりのストレスがかかります。

 

それよりは、いかに「安全な徘徊」をしてもらうかを考えた方が、現実的です。具体的には「家(会社)に送ってゆきましょう」と家族が一緒に外を歩き、タイミングを見計らって「花がきれいですね」と気をそらせます。患者さんが花に気を取られて散歩のことを忘れたすきに自宅に連れて行くと、上手く誘導にのって帰宅してくれることがあります。

 

このように実際歩くことで、患者さんの欲求を解消させると、お互いにストレスがたまりにくくなります。玄関が開くとアラームが鳴るようにしておき、出て行ったことがわかるようにすると、家族は早く行動できます。

 

 山形市では平成26年5月から、「おかえり・見守り事前登録」という制度がスタートしました。あらかじめ徘徊する可能性のある認知症患者さんを登録することにより、いざ行方不明となった時、山形警察署と山形市役所の連携により、捜索してもらえます。

 

登録を希望される方は、お近くの地域包括支援センターか、山形市役所 山形市長寿支援課(電話 023-641-1212 内線 564・565)までご連絡下さい。


風呂に入らない

●風呂に入らない
認知症患者さんは高齢の方が多く、嗅覚は鈍感になっているため、体臭が気にならなくなります。また風呂で行う手順(服を脱ぐ、風呂につかる、タオルにせっけんをつけて身体を洗う、シャンプーで髪を洗う、風呂上がりに服を着る、など)を行うことが認知症のため難しく、面倒になります。

 

家族が患者さんを入浴させようとしても、患者さんは家族の顔がわからなくなってしまっていて、「知らない人から服を脱がされる」と感じて抵抗することもあります。このような原因のため、患者さんは風呂に入らなくなります。

 

●風呂に入らない時の対応
入浴剤を入れて風呂に興味を持たせる、「♪服脱いで、まずお湯かけて、風呂に入るぞ、ホイホイホイ♪」と節を付けて誘導し、楽しい雰囲気で入浴を手伝う、などの方法があります。洗髪時に顔にお湯がかかることを嫌がる場合は、シャンプーハットを使うと良いでしょう。

 

夜は周りが暗くなり、認知症患者さんの不安が増大するため、日中、明るい内に風呂に入ってもらうと抵抗は少なくなります。デイサービスを利用できる場合は、そちらで入浴をお願いするとよいでしょう。


家族に暴言を吐く

●家族に暴言を吐く
患者さんは、家族が思いやりの心で行った注意・指導の、「思いやり」の部分が、認知症のため読み取れなくなっています。その代わり、家族のキツイ言動や表情を、そのまま「本人への攻撃」と認識して、自己防衛のために家族を攻撃します。

 

一方他人は、患者さん本人へ優しく対応することが多いため、本人は攻撃されたと感じず、優しく応じます。また患者さんは感情を抑えることが難しくなるため(これも認知症の症状)、ちょっとしたことで声を荒らげる事もあります。

 

●暴言への対応
認知症患者さんが興奮し暴言を吐いたら、落ち着かせることがまず大切です。他の家族や第三者などに間に入ってもらったり、暴言を吐かれた家族が一旦その場を離れたりして、患者さんに冷静になってもらいましょう。その上でまず、かゆみや便秘などの機嫌が悪くなる原因がないか、考えましょう。かゆみ、便秘を、認知症患者さんは上手く伝えることが出来ません。

 

このような原因がなければ、患者さんへの話し方を今後どうしたら良いか、具体的に家族間で考えてみましょう。その際、ケアマネージャーに同席してもらうと、プロのアドバイスがもらえます。腑に落ちないとは思いますが、家族の方で認知症患者さんへの対応を変えることが、現実的です。

 

患者さんの暴言の程度が著しい場合は、薬を用いる方が良い場合がありますので、かかりつけ医に相談してください。


作話

●あること無いことを語る (作話)
認知症患者さん本人は、過去のことを「まだら」に覚えています。しかしすべてを覚えてはいないため、その途中の忘れたところを、うまい具合につなげて話します。これは患者さんが自尊心から、「忘れた」と言えないことで起こる行為です。

 

また患者さんは、認知症のために妄想と現実の境界があいまいになり、あることないことを作って話すこともあります。

 

いずれも患者さんは、悪意をもって話しているわけではありません。しかし作話には家族の悪口が含まれる事が多く、家族にとってかなりストレスとなります。

 

●作話への対応
内容が軽ければ「ふーん、そうなんだ」と、否定も肯定もせず、あいまいに対応してみましょう。作話の内容を肯定すると、患者さんはますます作話を「現実」と信じ込んでしまいます。また家族が作話の内容を否定すると、認知症患者さん本人の頭の中の「正しい」ストーリーを否定することになるため、怒り出します。

 

患者さんが家族の悪口を近所に言いふらしているときには、隣人に認知症患者さんの病気のこと、作話のこと、その対応法などについて、あらかじめ話しておくと良いでしょう。


3つの「ない」を実行してみる

3つの「ない」

以上の対応法をふまえて、認知症患者さんと接するとき、3つの「ない」を実行してみてください。

 

●(むやみに)叱らない
●(早く早くと)せかさない
●(家族から)遠ざけない

 

これを行うのは、家族にとって大変だと思います。しかし3つの「ない」が実行できると、患者さんは落ち着いてきます。その結果、家族も介護がラクになってきます。

 

認知症患者さんの介護は大変です。患者さんが徘徊したり、風呂に入らなかったりすると、「どうして家族の言うことを聞いてくれないのだろう」とイライラすると思います。また作話や物盗られ妄想では、家族がついカッとして、患者さんと言い争う事もあるでしょう。家族も人間ですから、それは仕方のない事です。

 

しかし患者さんも、認知症という「病気」にかかっています。介護でストレスがたまったときには、話をケアマネージャーさんなどに聞いてもらい、まずは気持ちを整理してください。そして、我々医療従事者もふくめ、認知症患者さんとどう関わってゆくと良いか、いっしょに考えましょう。

 

なお、認知症の方の介護などについて、こちらのサイトにわかりやすく書かれてあります。
→認知症の人と家族の会